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大阪高等裁判所 昭和52年(ネ)1954号 判決

第一九五三号事件控訴人

第一九五四号事件被控訴人

(以下、一審原告という)

大町丑之助

右訴訟代理人

西元信夫

第一九五三号事件被控訴人

第一九五四号事件控訴人

(以下、一審被告という)

橋本弘勝

右訴訟代理人

赤沢敬之

三木俊博

主文

一、一審被告の控訴を棄却する。

二、一審原告の控訴に基づき原判決主文第二、第三項を次のとおり変更する。

三、別紙物件目録(一)記載の土地につき、一審原告が歩行による通行権を有することを確認する。

四、一審原告の主位的請求、及びその余の予備的請求を棄却する。

五、訴訟費用は、一、二審を通じてこれを二分し、その一を一審原告の、その余を一審被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一〈省略〉

二〈証拠〉によるも、本件通路につき一審原告が通行地役権を有するものと認めることができない。また、〈証拠〉を綜合すれば、一審原告居住の本件賃借地は袋地(囲繞地)ではなく、本件通路(最短幅約1.5メートル、最大幅約2.2メートル、長さ最長部分約11.5メートル)のほかにも、一審原告方正門前から東に向い一審原告方賃借地北側に添う通路(一審被告所有地、幅約1.5メートル、右正門東より長さ約3.8メートル)があり、右通路は東端において南北に走る私道(一審被告所有地、長さ約14.7メートル)に接し、これを通行して北側公道(府道)へ出ることができることが認められ、右認定を妨げる証拠がない。したがつて、この点に関する一審原告の主張は失当であつて採用できない。

三次に、一審原告は本件通路につき地役権を時効取得した旨主張するので判断するに、通行地役権者は土地所有者または相隣関係においてこれに準ずべき物権を有する者に限られると解すべきであり(大審院昭和二年四月二二日判決・民集六巻一九八頁参照)、仮に土地賃借権の物権化的傾向に応じ賃借権者も地役権者たりうると解するとしても、地役権の時効取得に関する「継続かつ表現」の要件をみたすには、要役地の権利者が承役地たるべき他人所有の土地に通路を開設し、あるいは自己の費用や労力でこれを維持管理することを要し、たんに承役地所有者が近隣者間の情誼によるなどの理由から通行を黙認しているだけでは足りないと解すべきである(最高裁判所昭和三〇年一二月二六日判決・民集九巻一四号二〇九七頁、同昭和三三年二月一四日判決・民集一二巻二号二六八頁参照)。これを本件についてみるに、一審原告またはその先代ないし先々代が本件通路を開設したことはもちろん、その維持管理をしていたことを認めるに足る証拠がなく、かえつて、前示認定事実のほか〈証拠〉を綜合すれば、本件通路の北側突きあたりに東西に通ずる公道は昭和一九年ころ拡幅され一審被告の先代橋本竹像経営の植田屋呉服店の店舗全部が取りこわされて公道敷となり、昭和三二年ごろ右先代がその居宅を建替えた際も従前同様、右居宅の玄関(出入口)を本件通路の旧通路(右先代所有地)に面して設置し、これに伴い右通路も板石を並べるなどして通路の大部分を整備し本件通路となし、爾来本件通路の掃除・水撤き等をしてその維持管理にあたるとともに本件通路を使用していたこと、右先代死亡後は本件通路の所有権を一審被告において承継し、かつその維持管理を継続し使用していることが認められる。もつとも、〈証拠〉によれば、一審原告において昭和三六年ごろ本件通路のうち一審原告方正門付近を自己の費用でコンクリート舗装し本件通路を従前のどおり通行していたようにうかがえる部分があるけれども、この事実をもつてしても前示認定を妨げるに足らず、他に右認定を左右するに足る証拠がない。以上の事実によれば、本件通路につき地役権の時効取得について必要とする継続かつ表現なる要件を一審原告において具備しないものというべきであるから、一審原告の右主張は失当であつて採用できない。

四さらに、一審原告は、黙示の使用貸借による本件通路の通行権を有する旨主張するので判断する。前示認定の事実関係によれば、一審原告ないしその先代は、居住用住宅の敷地(原判決添付別紙目録(二)記載の土地)をその所有者(本件通路の所有者でもある)から賃借して以来、本件通路とほぼ同一位置にあつた旧通路を通行使用することを黙認されていたところ、右敷地及び本件通路等が一審被告先代、ついで一審被告の所有となつた後も、従前同様、右敷地賃借人たる一審原告が右旧通路及び本件通路を通行使用することを、一審被告先代及び一審被告において、昭和四五年の一審原告の家屋建替工事、したがつて本件紛争に至るまで黙認してきたのであつて、おそくとも本件紛争が発生する以前に、一審原、被告間に、本件通路を一審原告が歩行により無償で通行使用することを承認する黙示の使用賃借に準ずる合意が成立していたというべきである。そして、右合意成立に至る経緯、並びに一審原告が自宅より公道に出るためには、本件通路によるほか、一審原告家正門より東に延びる私道を通り、その突きあたりから南北に走る私道(いずれも一審被告所有の私道・代替通路)を通ることもできる事実を考慮すると、右合意に基づき一審被告としては、本件通路を一審原告が歩行により通行することを禁止しまたは妨害することは、一審原告において通行を必要としない事情が発生しない限り許されない反面、一審被告において本件通路を閉鎖して使用する必要が生ずるなど特段の事情があるときは、これを理由として右黙示による合意を解除することができるというべきである(なお、一審被告がその居宅入口前に花木を植えた植木鉢を置き並べて飾るのは、それが本件通路の側端においてであるとしても、歩行による通行に支障のない限り、本件通路が一審被告所有の私道であることの性質上、差支えないことはいうまでもない)。

五そうすると、その余の点について判断するまでもなく、一審原告の通行地役権の存在を前提とする主位的請求は失当であり、また予備的請求のうち、一審原告が歩行により本件通路を通行する権利を有することの確認を求めるとともに、右権利に基づく本件通路の通行妨害行為の禁止を求める部分は理由があるから認容すべきであるが、その余の請求部分は理由がないから棄却すべく、これと一部異なる原判決を一審原告の控訴に基づき主文第三、第四項のとおり変更し、一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九六条、九二条本文、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(下出義明 村上博巳 吉川義春)

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